病院の先生方は、基本的にめちゃくちゃ忙しい。
そして私と妻は、保険会社から与えられた8回というチャレンジ回数のすべてを消化したわけではない。
いわば、前倒しで体外受精の準備を進めようとしているだけ。
また私も妻もちょうど仕事が忙しく、時間の融通がききづらかった。
それらの理由により、体外受精という次のステップに進むための先生との話し合いは、思っていたよりもだいぶ先になってしまった。
本当は、前回の妻との話し合いから起算して遅くとも1カ月以内にはミーティングをしたいと思っていたのだが…。
【いざミーティング!】
指定の時間は、午後2時。
数多くいる先生方の中でも、我々がすごく好きな先生がこの日の担当者だった。
この先生は、我々の拙いドイツ語にもしっかりと耳を傾けてくれるし、嫌な顔は一切しない。
これまでにも何度か言及しているとおり、ドイツのお医者さんは基本的に患者に寄り添ってくれる優しい方が多いように思うが、この先生はいつどんな時も等しくトップレベルの優しさで接してくれるため、私も妻も大好きなのだ。
「そろそろ次のステップに進もうと思っているんです」
と切り出すと、先生も
「それがいいと思います」
と即答だった。
いわく、
・すでに5回やってきて、成果がないこと
・夫(私)の精子の状態がそこまで良くないこと
この2つを見れば、次のステップに進む理由としては十分だという。
「あなた(私)の精子の状態は決して良くない。これまで人工授精を5回やって、1回は妊娠に成功したけど、あなたの精子の状態を考えると、その1回成功した妊娠もかなり奇跡だったように思う。なぜ妊娠したのか、本当に不思議に思うくらいのレベルです」
【書類の準備を進めてください】
先生によると、プライベート保険の会社によっては、なんだかんだ難癖をつけて費用負担を渋るところもあるらしい。
しかしここまでの流れを見ると、私が加入しているプライベート保険はかなり良心的な会社じゃないか、ということだった。
必要な書類さえ揃えれば一発で費用負担の申請が通るのではないか、と。
ドイツでは、役所や外国人局のような公的機関であろうと、保険会社のような一般企業であろうと、担当した人間の裁量でコトが決まるため、「必要な書類を揃えていてもなぜか断られる」ということがそれなりの頻度で起こる。
親切な先生は、我々にメールアドレスを渡しながら「保険会社から手紙が来たらPDFで私のメアドに送って。必要な書類はこちらですぐに用意するから」と力強い言葉をかけてくれた。
病院を出て、妻と話した。
「体外受精に関するミーティング一発目の担当医があの先生で良かったね。ラッキーだね。幸先いいね」
しかし半年前、稽留流産というまったく予想していなかった出来事に直面し、本当に我々に子供ができるのか疑心暗鬼だった私は、口では「幸先いい」なんて妻に言いながらも、「ちゃんと全額負担の許可が下りるのかな」と、胸の内はとても弱気だった。
コメント