夕飯を終え、私はPCに向かい、妻はソファーに寝転がりながら、膨らみつつある下腹部を撫でていた。
すると妻が「あ!!!」と叫んだ。
あまりに突然の大声だったので驚き、そして少しだけイラっとした(笑)
「どうしたの?」と聞くと、「今、胎動を感じたかもしれない」と。
【放心状態】
妻によると、下腹部の少し左側を内側から「ポコン!」と叩かれたような気がしたという。
そのまま妻は同じ箇所に手を当てていたが、「あれ~?気のせいなのかなぁ…」と若干ヘコみ気味。
試しに私も手を当ててみたが、何も感じない。
20秒ほど手を置いて「何も感じないじゃん」と言って手を離すと、「もうちょっと辛抱してよ!」と軽く怒られた(笑)
その後も5分以上、「ベビちゃん、ママのおなかもっと蹴っていいんだよ?」と、妻はおなかの子に話しかけながら下腹部に手を置いていたが、胎動らしきものは結局1回だけ。
床に就くまで、妻は少し口数が減っていた。
「胎動1回だけだったからヘコんでんの?」と聞いたら、「ううん、初めて感じた胎動に感動して放心状態なの」と、妻は照れながら話していた。
【不妊治療28カ月と26日:両親に言う】
目下、私と妻の関心事は「いつ両親に言うか」だった。
私の両親に先に伝え、その後妻の両親に伝えることまでは決まっていたのだが、「いつ伝えるか」を決めていなかった。
もうこの時点で、とっくに安定期には入っていた。
だいぶ遅くなってしまったが、日本にいる両親に戌の日参りもしてもらわねばならない。
妻の両親はすでにたくさんの孫に囲まれているが、私の両親にとっては初孫になる。
前回の稽留流産後、私の母親にお願いして、地元のお寺に水子供養に行ってもらった。
子どものことについて話すのは、あれ以来だ。
その日、父親はすでに就寝しているが、母親はまだテレビを見てのんびりしていると、母からLINEの返事があった。
「よし、ここだ」ということで、数週間ぶりに実家とテレビ電話をつないだ。
最初はお互いの近況など他愛もない話をしていたが、ここで私が母親に「ところでさ、この写真を見てほしいんだけどね」と言い、スマホを通じてベビちゃんの写真を見せた。
母親はすぐに「ん?なにこれ?胎児???」と、胎児のエコー写真であることは分かったようだが、何もピンときていない。
「そうだよ、胎児だよ」と答えるも、キョトンとした顔をしている。
「○○(妻)のおなかにいる子の写真だよ。今、妊娠5カ月」と言うと「えええええええええええ!!!!ホントに??????おめでとーーーーーーーーーーーー」と、過去に見てきた母親の表情の中で、最もうれしそうな顔をして喜んでくれた。
それから、ここまでの経緯や、どんな感じで検査をしてきたかなど、いろんな報告をしておいた。
母親はこちらの言うことをずっと笑顔で聞いている。
テレビ電話を切る時、母親は
「もうお父さん寝てるから、明日の朝に伝えるのが楽しみ。仏壇のご先祖様たちにもちゃんと報告しておくからね」
と言い、最後まで顔をほころばせていた。
もちろん、産まれるまでは安心できない。
稽留流産を経験したことで、その恐怖感はずっと消えない。
でも、母親に人生で最も良い報告ができたことが素直にうれしかった。
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