妊娠発覚後、トツキトオカというアプリの中にいる赤ん坊から毎日言葉をもらい、それを糧に過ごしていた。
悪阻で苦しむ妻を、本人には悪いがどこか微笑ましく眺めていた。
待望の第一子の心音をエコーで確認したのは、不妊治療を行っていた病院でのこと。
あれから時間が空いてしまったが、あの不妊治療専門の病院も卒業となり、今回からついに一般の婦人科でおなかの子どもの状態を定期的にチェックしていくことになった。
どれほど大きくなっているのかな?
予約していた開業医へ、妻と電車で向かった。
エコーで心臓が動いているのを見せてくれた息子or娘は、果たしてどれくらい大きくなっているのだろうか?
空はあいにくの雨模様だったが、検診が楽しみで楽しみでしかたがなかった私にとって、ドイツの曇り空はまったく苦ではなかった。
病院に到着し、トイレを済ませ、妻と待合室で待つ。
すぐに名前が呼ばれ、診察室へ入った。
初めて行くその部屋はこじんまりとしているが、基本的な設備は整っている。
医者に促された妻は下半身の服を脱ぎ、診察台にまたがった。
暗いままの画面
エコー検査がすぐに始まった。
だが、画面はただただ真っ黒なまま。
医者の先生が「うーん…」と言いながら超音波の機械を動かし、妻のおなかを探っていく。
画面は相変わらず黒い何かを映し出している。
心音を確認できた時は、グレーのような白いような、そんなものが映っていたのに、だ。
この間、おそらく時間にして正味2~3秒だったと思う。
でも、妙な胸騒ぎを覚えた私にとっては、それがまるで数十分のように感じた。
そして、さらに5秒だったか、10秒だったかは分からないが、診察を続ける先生の口から次に出た言葉は「非常に言いづらいけど、既に亡くなっています」だった。
「亡くなっている」ってどういうこと?
受け入れがたい現実だった。
診察が始まってすぐに胸騒ぎを感じたとはいえ、先生の言葉の意味を理解できるまで時間がかかった。
「亡くなっている」ってどういうことなのだろうか…?と。
不妊治療をスタートして1年。
世の中には、もっと長い期間、この治療に費用も時間も費やし、苦労されている方もいる。
その方々からすれば、「1年なんて短い」「たった1年で何を言うか」「甘っちょろいこと言うな」と思われるかもしれない。
しかし私と妻にとってはこの1年、さらに結婚してからのこの3年は、決して短いものではなかった。
申し込みから半年待ち、煩雑な資料に辞書を何度も使いながら目を通し、幾多もの書類を書き上げ、ようやく人工授精が始まり、そしてそれが実を結んで命を授かった。
亀のように遅いスピードでも、少しずつ前に進んでいた道。
その道が崩れ去った。
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