妻が病院へ書類を取りに行った日は、2人とも忙しかったので、書類はそのまま放置。
翌日の夜、妻が時間を見つけてM先生からもらった封筒を開封した。
すると妻が、「あれ?」と言い出した。
【いきなりICSI?】
妻が私に書類を見せてきた。
M先生が今回渡してきたその書類には、ハッキリと「ICSI」と書いてある。
ICSIとは顕微授精。
頭が混乱する。
私が加入するプライベート保険に提出した、M先生が書かなければならない書類にはIVFと書いてあったのに、なぜか今回はもう一段階上の「ICSI」という4文字が並んでいる。
おそらくはM先生が間違えたか、それとも何か考えがあるのか。
しかし、私が加入するプライベート保険には既にIVFということで話を進めてあるのに、妻が公的保険に提出する書類にICSIと書かれてしまったら、最悪の場合、私が加入するプライベート保険側が「話が違う」と言い出して、ICSIの治療費を負担してくれないのではないか。
そんな悪い予感が私の頭をよぎった。
【つい声を…】
妻は「とりあえずM先生に、『なんでいきなりICSIになったんですか?』ってメールで聞かないといけないから、ドイツ語のメールをどういう風に書けばいいか、一緒に考えてほしい」と言ってきた。
今、冷静に考えれば、もう後の祭りであることは誰の目にも明らか。
しかし、そこで妻に「なんで昨日M先生から書類をもらったその場で、中身を確認してこなかったんだよ!」と、つい声を荒げてしまった。
そして「メールくらい自分で書きなよ!!!」と妻に向かって追撃砲…。
妻は意気消沈し、しばし黙ったあと「……ごめんなさい」と言い、M先生からもらったBehandlungsplanを片手に、メールを書くためPCに向かいだした。
【妻の後ろ姿】
そのあまりにも寂しそうな妻の後ろ姿を見て、ふと我に返った。
自分だったら、本当にもらったその場で書類をチェックしたのだろうか?
次のステップになかなか進めないからといって、その怒りを妻にぶつけていいのか?
妻だって、早く次のステップに進みたいんじゃないのか?
妻だって、早く子供が欲しいに決まっている。
声を荒げた自分の行動は正しいのか?
いや、間違ってる。絶対に間違ってる。
【妻、号泣】
一呼吸を置いて、「俺が一緒に(ドイツ語でメール)作るよ」と言って妻の横に座ると、妻が「私はただ、らんたろーとの赤ちゃんが欲しいだけなのぉぉぉぉぉ」と号泣しながら抱きついてきた。
ただただ、申し訳なかった。
妻には本当にひどいことを言ってしまったなと、ひたすら反省した。
なかなかうまくいかない焦りと、妻にあたってしまった自分のアホさと、「らんたろーとの子供が欲しいだけなの」と号泣する妻の姿と…。
いろんな感情があいまって私も泣きそうになってしまった。
約1年前、妻のおなかの中で亡くなっていた我が子は、こんな理不尽な父親の下には生まれてきたくなかったのかもしれないな。
そんなことも思った。
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